大判例

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福岡地方裁判所 昭和42年(ワ)583号 判決

原告 筑紫信用組合

右代表者代表理事 藤勇三郎

右訴訟代理人弁護士 久保田源一

被告 福岡愛馬会

右代表者理事長 間正

右訴訟代理人弁護士 諫山博

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し別紙目録記載の建物を明渡し、且つ昭和三九年一〇月六日より昭和四〇年九月三〇日までは一ヶ月金二八、四〇〇円、昭和四〇年一〇月一日より昭和四一年九月三〇日までは一ヶ月金三〇、七〇〇円、昭和四一年一〇月一日より昭和四二年九月三〇日までは一ヶ月金三一、五〇〇円、昭和四二年一〇月一日より右建物の明渡に至るまでは一ヶ月金三四、六〇〇円の各割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、別紙目録記載の建物は、元、訴外株式会社福岡乗馬倶楽部の所有であったが同建物に設定してあった根抵当権(抵当権者原告、債務者松田光喜、債権元本極度額金一、〇〇〇、〇〇〇円、根抵当権設定契約時昭和三六年五月九日、同設定登記同年五月一〇日)の実行として昭和三八年七月四日原告は福岡地方裁判所に不動産任意競売を申立て、同年七月八日同裁判所より不動産競売開始決定があり、原告がこれを競落し、昭和三九年七月二七日原告に対し競落許可決定あり、原告はその代金を完納し、同年一〇月六日に原告名義に右競落許可決定による所有権移転登記手続を終え現に右建物は原告の所有にかかるものである。

二、被告は馬術の振興及び会員相互の親善をはかることを目的として結成された代表者の定めある法人に非ざる社団であるところ、前記本件建物につき競売申立のあった当時よりこれを占有使用しているものである。

三、右建物はこれを賃貸するとすれば、その賃料は昭和三九年一〇月六日より昭和四〇年九月三〇日までは一ヶ月金二八、四〇〇円、昭和四〇年一〇月一日より昭和四一年九月三〇日までは一ヶ月金三〇、七〇〇円、昭和四一年一〇月一日より昭和四二年九月三〇日までは一ヶ月金三一、五〇〇円、昭和四二年一〇月一日以降は一ヶ月金三四、六〇〇円であり、原告は被告の右建物の不法占有により右賃料相当額の損害をこうむっている。

四、よって原告は被告に対し本件建物所有権に基き右建物の明渡を求めるとともに、右建物が原告の所有名義になった昭和三九年一〇月六日より昭和四〇年九月三〇日までは一ヶ月金二八、四〇〇円、昭和四〇年一〇月一日より昭和四一年九月三〇日までは一ヶ月金三〇、七〇〇円、昭和四一年一〇月一日より昭和四二年九月三〇日までは一ヶ月金三一、五〇〇円、昭和四二年一〇月一日以降右建物の明渡に至るまでは一ヶ月金三四、六〇〇円の各割合による賃料相当の損害金の支払を求めるため本訴請求に及ぶ

と述べ(た。)

立証≪省略≫

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として主文同旨の判決を求め、その理由として被告福岡愛馬会は乗馬の愛好家が馬術振興ないし相互親善を目的として結成したサークルないしは同好会の如き団体であるが組織だった社団ではなく同会の組織運営、代表の方法、会議の運営、財産の管理等について定款、規約或は規則などの定めは存在せず、代表者の定めもなく、民事訴訟法第四六条の法人格なき社団で代表者の定めあるものに該当せず、被告には当事者能力がないから原告の本訴請求は訴提起の要件を欠く不適法なものである

と述べ、

次いで本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

請求原因第一項中、本件建物が元、訴外株式会社福岡愛馬倶楽部の所有であったこと、現在右建物が原告の所有となっていることは認めるがその余の事実は不知。

請求原因第二項中、被告福岡愛馬会が馬術の振興及び会員相互の親善を計ることを目的として結成された団体であることは認めるがその余の事実は否認する。

被告福岡愛馬会は代表者の定めある法人に非ざる社団ではない。従って被告が本件建物を占有使用しているとの事実は否認する。請求原因第三項は争う。

と述べ(た。)

≪証拠関係省略≫

理由

一、被告福岡愛馬会が会員制の馬術振興と会員相互の親善を計る目的で結成された団体であることは当事者間に争いがない。

二、原告は被告が代表者の定めある法人格なき社団として当事者能力を有すると主張し被告はこれを争うので判断するに、≪証拠省略≫を総合すると

(一)  訴外元株式会社福岡乗馬倶楽部は別紙目録記載の建物を所有して営業していたところ、昭和三六年頃倒産し、昭和三七年六月頃同会社の資産は競売に付され原告が本件建物を競落して昭和三九年七月二七日競落許可決定により所有権移転登記手続を終え同乗馬倶楽部は営業が不可能になった。当時同乗馬倶楽部の会員等は同倶楽部の廃絶を惜しみ乗馬の機会を残すことを協議し、競売に付された馬匹、馬具等を買取り新たに馬術振興、会員相互の親善を計ろうと考え同倶楽部の特別会員、理事等七名は一人宛金三万五、〇〇〇円を出資して馬匹七頭、馬具、プレハブ住宅を競買人より買戻し昭和三七年一〇月一三日被告福岡愛馬会なる団体を結成し、福岡乗馬倶楽部が従前使用していた本件建物外その敷地約二万四〇〇〇坪(七九三三八平方メートル)並に馬屋大小各一棟を利用し馬匹二〇頭をもって同会の維持運営に当って現在に至っていること。

(二)  福岡愛馬会は前記出資者七名を特別会員とし、正会員、普通会員、団体会員を募集して昭和四二年七月二七日現在会員約三〇名中特別会員は八名であるが、特別会員以外は単に会費を納入して同会の馬を利用する顧客であって同会の構成員は特別会員のみとみられるところ、同会の運営の方法として代表者は特別会員たる理事の互選により代表理事を選出し初代に渡部孟を、その後現代表理事間正をそれぞれ選出し、特別会員の脱退、新規特別会員の加入は出資金の返還納入を伴い、適宜特別会員が相互に連絡して総会を開き脱退、加入を協議し、馬匹等同会の財産の管理、会計管理は同会の傭人である木村留夫がこれに当り、理事長はこれの監督を行うが、定時に総会を開いて報告、議決することはないこと。

(三)  福岡愛馬会の特別会員は団体結成後の昭和三八年頃社団法人福岡愛馬会の創立を計ろうと総会を開いたことはあったが結局創立に至らず、定款、規則の定めも作成せず、前記のとおり特別会員相互の連絡により必要に応じて全特別会員の協議によって同会の運営に当り現在に至っていること。

以上の事実が認められ右認定を覆すに足る証拠はない。

三、民事訴訟法第四六条に規定する権利能力なき社団とは、法人格こそないけれども実体がなお法人と変らぬ団体については当事者能力を与えて紛争解決を計る必要あることから認められた制度であるから、実質上社団と認め得る程度に団体の組織を備えている場合、即ち民法上の社団法人に準じて内部組織、団体の意思決定手続、代表の方法、財産の管理等各構成員とは独立して活動する団体と認められる程度の社団性を備えた場合を指すものと考えられる。

これに反し同じく私法上権利能力を有しない団体に組合があり組合にあってはこれを組織する組合員個人が独立の存在を示しただ共同の目的を達成するために必要な限度で統制され、そこに社団性を取得するものであって、これは組合員とは独立した組織体が認められない場合で権利義務は組合員個人に帰属する団体である。

法人格なき社団として民事訴訟上当事者能力を有するには、その代表者の訴訟行為により社団の権利関係が確定するけれども社団は構成員と独立して存在するから訴訟の結果は直接その構成員に影響を及ぼさないことが前提となっていなければならない。従って団体の性格からみて構成員がその団体中に重要な存在を有する場合には訴訟の結果が構成員に及ぶ危険がありかかる場合にその団体に当事者能力を認めるのは相当ではない。

結局当事者能力を有する法人格なき社団と認められるためには代表者の定めがありその団体が構成員から独立した存在が認められる程度の社団性を備える必要があると考えられ、その判断は前記のとおり団体の内部組織代表者の定め、意思、決定手続、財産管理等の規則の定めを民法の社団法人の規定に照らして考慮することとなるものと考える。

四、前記認定の福岡愛馬会の社団性を考えるに同会を組織する特別会員は出資者に限定され、特別会員のみによって同会は運営され同会を代表する者として代表理事を選出することになっているが、代表理事選出、同会運営に関する意思決定等重要事項を定める文書による規則は存在せず又事実上の規則も確定しているとは認められず、総会は事実上現在六名の特別会員が必要に応じて会合し協議によって運営を計る程度のものであり代表理事選出とはいっても特別会員中の一名に同会の通常の事務を委任するための協議と解するを相当とする。資産の管理についても同会の被傭者である木村留夫が事実上これに当り、同会の取引は飼料関係のみで木村個人がこれに当り特別会員は関係せず、会計の監査は適宜代表理事が木村留夫の作成した帳簿を調査する程度であることから、代表理事が木村留夫に同会の資産管理を委任しているものと考えられる。

五、以上福岡愛馬会の社団性を考えると、同会は馬術愛好家が出資して馬術振興並に会員相互の親善を計る目的で共同事業として同会を結成し、共同で同会を管理運営している民法上の組合と認められ、これをもって民事訴訟法第四六条の法人に非ざる社団にして代表者あるものと解することはできない。よって原告の本訴請求は訴の要件を欠く不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 早舩嘉一)

〈以下省略〉

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